指揮者の「動き」がオーケストラに対し視覚的に影響を与えることが科学的に証明される
楽器を演奏する人の優劣は分かりやすいのですが、これが「指揮者」となるととたんに難しくなるもの。上手い、下手はおろか「前で棒ふってる人、必要なの?」というそもそも論のレベルの話もよく聞きます。しかし、今回の研究によって、指揮者の「動き」が視覚的に影響を与えること、そして指揮者の優劣が定量的に計測できる可能性が明らかになりました。
研究をおこなったのはメリーランド大学のヤニス・アロイモノス教授のグループ。同グループは「言葉や身振りのもつ意味は、文法ではなく本能的な脳の機能とつながっているのではないか」という仮説の証明をすすめており、今回の実験はそれに関する非言語コミュニケーションの研究をするためのもの。
実験では8人の弦楽器奏者の弓の先と、指揮者がもつ指揮棒の先にそれぞれ赤外線LEDを取り付け、演奏中のそれぞれの動きを赤外線カメラで撮影しました。そしてそれぞれのメンバーの動きのパターンの相関を数学的に解析しました。
ある決まった指揮棒の動きの後、ある決まった弓の動きが現れれば、指揮者はオーケストラをコントロールしているといえます。しかしある決まった指揮棒の動きの後の弓の動きがバラバラであれば、コントロールできていないということが分かります。
まず、解析の結果、指揮者が手や身振りで何か動きを伝えると、演奏者がそれを受け取って動きを返し、それを見た指揮者があらたな動きを伝えるという、動きによる「会話」が行われていることが明らかになりました。
さらに指揮者を変え、それぞれの演奏を音楽評論家が評価したところ指揮者と奏者の動きが相関しているほど音楽的な評価は高くなることが分かりました。
このとき、単純に指揮者-演奏者の相関が増えるだけではだめで、演奏者-演奏者の相関が減らなければこの効果は発揮されないことも判明しました。つまり演奏者がメンバーどうしではなく指揮者のほうに集中するよう、うまくリーダーシップが発揮されているほど音楽的にはよくなるということになります。
リーダーシップの発揮の仕方は人それぞれである、ということはこちらのTEDでのプレゼンテーションで述べられているとおり。そこに指揮者と音楽の個性が現れるということでしょう。
イタイ・タルガム 「偉大な指揮者に学ぶリーダーシップ」 | Video on TED.com
オーケストラとその演奏というのはものすごく細かい要素が積み重なった複雑なもの。視覚的なものが影響を与えるということは、極論をいえば楽譜の編集の優劣(一続きのメロディが段をまたいでしまうなど)や観客の盛り上がりからもなにかしらの影響を受け取ってしまうということです。
「名演とは一期一会」といいますが、こうしたライブ演奏文化はいつまでも残って欲しいものですね。
ソース:PLOS ONE: Leadership in Orchestra Emerges from the Causal Relationships of Movement Kinematics
Do Orchestras Really Need Conductors? : Deceptive Cadence : NPR
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