自分の体を撃って防弾ベストを売り歩いたとあるピザ屋さんの物語
銃の弾丸を防ぐアイディアは昔からいろいろありますが、現在のようなケブラー繊維を何枚も重ねた比較的軽量・実用的な形になったのは1970年代のこと。これを普及させてたくさんの人の命を救うため、文字通り自分の命を賭けて開発と売り込みをかけていたとある元ピザ屋さんがいたのです。
それは1969年7月21日、アポロ11号が月を目指して飛び立ってすぐの日のことでした。海兵隊を辞めて自分のピザ屋さんを開いていたリチャード・デイビスさんは、その日もデトロイトのちょっとガラの悪いエリアに配達にいったのです。
自衛のために銃を携帯していたのが幸いしました。デイビスさんは銃をもった強盗団に囲まれますが、2人を撃ってこれを撃退。しかし彼自身も2発の弾丸を体に受けて倒れてしまったのです。
「もし巡回中の警察官が俺と同じようなことにでくわしたら……撃たれても反撃するチャンスがあれば……」そしてデイビスさんは自分の車のシートベルトとナイロン布を組み合わせて軽量で服の下に着ることができる防弾ベストを作り上げました。
何度もテストを繰り返し性能に納得したデイビスさん、しかし宣伝をしなければどんなにいいものも売れるわけはありません。そのプロモーションも実にユニークでした。ほうぼうの警察やガンショーを回って、こんなデモを行ったのです。
ベストを着て自分の体を撃つデイビスさん。自分を撃った後にターゲットを撃ち、実戦でも同じことができるということをアピールしたのです。銃はとにかく相手が手渡すものはなんでも使ったそうです。
Walking the Walk – YouTube
どれくらい宣伝効果があったのかは分かりませんが事業は成長を続け、1974年8月にはナイロンの230%強靭なケブラー繊維を使ったベスト「Model Y」の特許を取得。自身の体験から名づけられた「セカンドチャンス・ボディアーマー社」は5千万ドル(当時のレートで150億円)規模のビッグビジネスとなりました。
しかし1998年に開発されたザイロン繊維製のベストが問題となりました。ケブラー繊維のさらに2倍の強度をもつザイロンには、日光や湿気で劣化が促進する性質があったのです。
2003年、セカンドチャンス社のザイロン製ベストを着用した2名の警官が撃たれ重傷を負った事件の調査でこの性質が明らかになると同社はすべてのザイロン製ベストをリコール。ほぼ倒産状態に陥りますが2005年8月にアーマーホールディングス社に4500万ドルで吸収され、現在もそのブランド名は残っています。
いくら元軍属といっても、ピザ屋さんから防弾ベスト屋さんをやろうとは普通考えないものですよね。本当に必要だと痛感したプロダクトは売り込みも熱心にできるし、必ずビジネスとして成長していく、という面白い事例です。
参考文献:Second Chance (body armor) – Wikipedia, the free encyclopedia
Armor Holdings – Wikipedia, the free encyclopedia
Safariland – Wikipedia, the free encyclopedia
Ballistic vest – Wikipedia, the free encyclopedia
Zylon – Wikipedia, the free encyclopedia
A pizza guy invented the bulletproof vest
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