アメリカ政府機関、法律の「抜け穴」によって28年ぶりに「フルオート」銃の生産を認可しかけるパニックが発生
銃が普及していると言われているアメリカでも、未だ厳しく規制されているのが連射できる「フルオート」式の銃。この最後の砦が法律の「抜け穴」によってあわや崩れ去る直前までいってしまうというパニックがあったようです。
アメリカの「フルオート」銃規制の概略
その昔、銃は「弾に点火して発射するだけ」の機械でした。弾を内部に送り込み、銃身にフタをし、撃ち終わったら撃ち殻を捨てるのは人間がレバーやボタンを操作して人力で行っていました。
人力動作の代表的な銃である「ボルトアクション」方式。1発撃つごとにレバーを引いて薬莢を排出し、次の弾を装填しています。
Remington 770 in .30-06 Economy Bolt Action Hunting Rifle – YouTube
対して「自動式」のものは引き金を引くだけで装填から発射、再装填までの一連の動作が、火薬のガスや反動のエネルギーを利用して自動的に行われます。
How a firearm works – Animation (1911 semi-auto handgun) – YouTube
「自動式」の動作は「フルオート」と「セミオート」に分けることができます。
「フルオート」とは、引き金を引いている間はずっと連射できるタイプの銃を指します。
Patriot36’s Full-Auto Compilation – YouTube
「セミオート」の動作。銃の中にはこの2つを切り替えることができるものもあります。
Trent Lawrence fires H&K 91 308 semi automatic rifle – YouTube
見て分かる通り「フルオート」は短時間にたくさんの弾を撃つことができるので、殺傷能力は非常に高くなります。そこでアメリカでは1986年にFirearm Owners Protection Act(FOPA 訳:銃火器所有者保護法)を制定、フルオート射撃が可能な銃の新規製造と販売は一般人においては原則禁止し、その許認可について政府機関であるBATFE(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)に委ねることとなったのです。
合法で所有できるフルオート銃たち
そういうわけでアメリカでは1986年以降、フルオート射撃が可能な銃の一般人向け製造はされていません。しかしだからといって、一般人がフルオートの銃を所有できないというわけでもありません。
まずFOPAの条文では、1986年の法律制定以前に流通していたフルオート銃については、移転税を支払うことで所有・売買が可能となっています。28年以上前の銃はだんだん状態がいいものが少なくなってきているので、マニアの間ではすさまじいプレミアムがついて売買されているようです。
また「セミオートの銃をものすごく早く撃てるようになる補助パーツ」については、BATFEの認可を得れば製造・販売は自由です。あくまでも「セミオート」なので違法「フルオート」ではなく、移転税も不要です。
有名なのがこちらのBump Fire Stock。見た目はどう見ても「フルオート」ですが合法です。
Bump Fire Systems AR-15 Stock – Cheap Thrills, No Frills – YouTube
また、火器の製造者・小売業者としてライセンスを取得する方法もあります。この手法自体にもいろいろな「抜け穴」があり、それらについては先日鉄砲動画で知られるFPS Russiaが自分の動画で紹介していました。
FPSRussia의 Q&A (한글자막) – YouTube
しかし今回問題となったのは、このいずれでもない、まったく新しい「抜け穴」が発見されたことです。この「抜け穴」であれば規制発効の1986年以降に新規製造されたフルオート銃を合法的に所有できる可能性があるのです。
FOPAに隠されていた「抜け穴」
まず2014年5月にBATFEは、ディーラーからの「Unincorporated Trustに対して銃の所有権を移転する際、その代表者に対してバックグラウンドチェック(NICS)は必要になるのか」という照会にこう答えています。
「Unincorporated Trust」とは「会計上は繋がっているけれども法的責任は分かれていて、かつ法人として認められていない組織」をさします。個人事業主の組合などが含まれるようです。
抜粋すると
・NICSは人間に対して行う
・銃火器制限法においてUnincorporated Trustは人格をもつと定義されない(unincorporated trusts do not fall within the definition of “person” in the GCA)
・そもそも所有権の移転は法的に「人間」とされるものに対してのみ行うことができる
・したがってUnincorporated Trustに所有権を移転するとするなら、その構成員に対しNICSを行い、Trustの代表ではなく個人として所有権を移転することとなる
「Unincorporated Trustは人格をもたない」という回答はごく何気ないものに見えますが、銃火器問題の論者の間ではショックだったようです。なぜなら、先のFOPAで銃の製造・販売が規制されるのは……
(o)(1) Except as provided in paragraph (2), it shall be unlawful for any person to transfer or possess a machinegun.
第2段落に示す例外を除き、機関銃の所有権移転・所有を行う者は法に反している
「者」は「person」つまり人格を持った存在であると規定されています。
ところが銃火器制限法(合衆国法典18編921条)では「person」の定義を
individual, corporation, company, association, firm, partnership, society, or joint stock company.
個人、法人、株式会社、協会、商会、合名会社、結社、合資会社
としており、確かに「Unincorporated Trust」は「person」に含まれていません。
つまり「Unincorporated Trust」の名義で行うフルオート銃の製造は合法ではないか?という「抜け穴」が発見されたのです。
このニュースが知れるや、銃火器問題の論者は一斉に「火器製造・登録願い(Form 1)」を提出し、BATFEの反応に注目しました。
BATFEのほうでもかなり混乱があったようです。ストレートに却下された申請もあれば、中には一度認可の通知が来たにも関わらず「Unincorporated Trustの構成員に資格がなければダメ」と差し戻しの手紙がきたケースも多数あるようです。
こちらは「不認可だけれどもその手紙がつくまでは認可の状態になってしまっているので送り返して欲しい」というグレーな電話を受けた例。まさにパニックです
ATF Phone call directing return of approved Trust Form 1 for Machinegun. – YouTube
もしそのまま見過ごされていれば、28年ぶりにフルオート銃が新造されるところだったわけでいろいろな意味で画期的なことになっていた可能性があります。すでに「抜け穴」は防がれてしまいましたが、すでに銃火器論者の団体は抗議のキャンペーンを展開しており、ちょっと見ものののイタチごっことなっているようです。
トップ画像:shoot the bokeh (bokeh murder) | Flickr – Photo Sharing!
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