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人権とプロパガンダ……シリアにおけるデマだらけの「従軍慰安婦」報道


メディアが100%のウソを報道するわけがない……という常識は、戦争になるとあっという間にひっくり返ります。シリアでは「性のジハード(聖戦)」の名のもと、反政府勢力に対して売春のボランティアを行っていると報道されています。しかしこれはまったくのデタラメ、政府側の「戦時宣伝(プロパガンダ)」であると現地の女性がコメントしています。


こちらの調査記事はキュレーションメディア「BuzzFeed」のスタッフ、Sheera Frenkelさんがヨルダン-シリア国境のラムサでのインタビューを記録し2013年10月に公開したもの。「シリアの女性が性的奉仕を行っていると報じられているが、その中に真実はあるのだろうか?」というリード文がつけられ、プロパガンダによって傷つけられた女性の人権について扱っています。


「幻のセックス・ジハード(The Sex Jihad That Never Happened)」

23歳のレイラは、ファーストキスのことを話すといつも赤面してしまう。今、最初の子どもを妊娠しているレイラは、夫に出会う前は男性と手をつないだことすらないという。

「田舎で育ちましたから。私は内気で、信心深い人間です。私と夫が結婚した時は2人とも純潔でした。だから、セックス・ジハードなんてバカげた話を聞いてとてもショックです」

レイラはシリアで「性のジハード」に参加したと告発されている数百人の女性のうちの一人だ。先月、彼女の両親が「行方不明の娘」の話をするためテレビに出演した。母親は黙って立ち、父親は堕落したあげく「シリアの犬どもに売春」した娘の話を涙ながらに語った。

チュニジアの内務大臣ロトフィ・ベン・ジェドーはこのような映像を引用し、チュニジアの女性がシリアに「性のジハード」に出かけるのを止めると約束している。彼によれば、そうした女性は「20、30、あるいは100」の男性と性交し、そして妊娠してチュニジアに帰ってくるという。

性のジハード、あるいはジハド・アル・ニカにおいては(イスラムの戒律に反する)複数の相手との婚外交渉が許されるとしている。スンニ派の過激派も聖戦として認めている行為だ。

「ジハド・アル・ニカの名の下に行われた性交の後、彼女たちは妊娠して帰郷する」とベン・ジェドーと名乗る男は語っている。

レイラは匿名を条件に、すべては作りごとだと申し出た。2年前に彼女がチュニジアの小さな村から看護婦としてシリアの反政府武装勢力に参加したことだけが真実だという。

彼女はそこで現在の夫と出会った。

「私たちはそこで出会い、そこでイスラム式の正式な結婚をし、家庭を築きました」とレイラは言う。

「チュニジアの私の家族はこれを受け入れませんでした。とてもつらいことですです。しかし彼らは私が婚姻を結んだ女性であり、性のジハードの娼婦でないことは知っているはずなのです!」

彼女の夫はシリアのホムズで解放軍として戦っている。レイラはヨルダンの北部、ラムスの街で他に3つのシリア人家族とアパートをシェアして暮らしている。

「これはスキャンダルで、この嘘を信じてしまった人もいます。しかしほとんどの人は、これは政府が私たちの兵士や夫の名誉を傷つけるためのデタラメだと知っています。私たちは性のジハードなんて知りませんし見たこともありません。どこかの変態が発明したことにすぎません」

性のジハードを否定すべく名乗りでたのは彼女だけではない。

数日前、アル・アラビヤ放送がシリアの反政府勢力をレイプの罪で告発する女性について報道した。しかし実際、彼女たちはシリア国軍に誘拐されたのだった。

ラワン・クワダと名乗る女性は自分の父を「反政府勢力に名誉を売った」あげく、彼女をレイプさせたと批判した。サラ・カレッド・アル=アラウォという女性は「性のジハディスト」として反政府勢力に仕えたと述べた。しかし、いずれの女性の家族とも、女性は政府軍に誘拐され、デマを流すように強制されていたと証言している。

こんな話もある。イランのPress TVが放送したところによれば、あるシリアの女性が反政府勢力にレイプされた後、子どもと共にトルコの難民キャンプで焼身自殺をしたという。難民コミュニティに関わる国際人道団体とトルコ当局はBuzzfeedに対し、そのような殉教的なケースはキャンプで発生しておらず、ニュースは事実に基づいていないとコメントした。このニュースはトルコのジャーナリスト、アディル・ハチョメログルのコメントのみを引用していた。ブログやtwitterでシリアの反政府勢力について過激な主張を展開している人物だ。

またPress TVの番組で紹介された静止画は、BBCの人体自然発火現象を解説するまったく無関係な記事からの流用である。

Press TVがシリア情勢について報じた番組で作られた静止画

BBCの人体自然発火現象に関する記事での画像

「性のジハード」に出かける女性の話は、アラビア語圏のマスメディアに1年以上前から登場している。

「性のジハードに関してはまったく証拠が不足しています。 通信社や人権団体など信頼できるソースからのレポートを見たことがありません」とHuman Rights Watchのチュニジアの研究員、アムナ・ゲラリさんは言う。「深く調べるといつも納得できない証言や、証拠を出してくれない機関に行き当たります」

女性に関するストーリー、とくに不名誉なものは政治的グループがお互いの名誉を棄損し合うのによく使われる。

「武力行使のたびに女性は性の道具として使われます。戦いに象徴性をもたせるため、死体だけでなく女性すらも蹂躙しているのです。西側のメディアすらこうしたウソを利用しているのが信じられません」

女性の権利団体「Women’s Media Center」が展開している、戦地の女性のためのキャンペーン「Women Under Siege」の長、ローレン・ウルフは、証拠もないような話がこんなにも広まっているのに驚いている。

「まったく証拠がないものを見るのは時間の無駄です。これらのせいで実際に起きたレイプ事件を見過ごしてしまっているのです。こうした話は腹だたしいばかりです。シリアでのレイプを煽るフェチ的なまでの報道をして、実際に処罰可能な事件を見ないままでいるのです」

レイラに対しては、性のジハードに参加したという批判がいまも続いている。

「子供が大きくなってこの話を聞くことがあるかもしれません。私や他の女性に関する嘘にはとても怒っていますし、それを正す行動はなにも行われていません」 彼女はそう言いながら、性のジハードについて報じるメディアが映るスマートフォンをぎゅっと握りしめた。

「毎日新しい記事が掲載されます。私は他の女性は知りませんから、彼女たちの話が嘘か本当かは分かりません。 私自身については、何が本当のことか知っています。 私はレイプされたことはありませんし、性のジハディストでもないですし、そう言っている人は嘘つきです」

ソース:The Sex Jihad That Never Happened


戦争中の地域における外電の見出しで必ず見かけるのが「子供や女性が戦争に巻き込まれた」などの記事。これらの中にはプロパガンダ(宣伝工作)としてでっちあげられたものがかなりの数含まれています。

以前シリア紛争におけるニセ報道についてこちらの記事でご紹介しましたが、普通の街並みを歩く親子連れが廃墟の街で逃げ惑っているかのように写真を合成したり、電話インタビューの中で銃声をさせて緊迫感を「演出」したり、普通では考えられないようなウソがそこかしこに見られます。

相手の兵士の士気をくじいたり、相手の名誉を傷つけたり、あるいは第三国政府や他国民からの援助を求めるためであったりとプロパガンダの目的はいろいろあります。これは「戦争のための手段」であって、事実かどうかはまったく問題にされていません。こうしたウソが報道に混じってくる、というのが「戦争」であり、これらをもとに善悪を論ずることがもうプロパガンダ主の術中にはまっているのです。

この談話自体もどこまで本当なのか、こうなると分かりません。「戦争の最初の犠牲者は『真実』である」とは古代ギリシャの詩人、アイスキュロスの言葉です。センショーナルな報道に惑わされることなく、現実に目を向けて考えたいものですね。

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