[字幕動画]軍用携帯食料に「ピザ」が採用されるまでの長い長い道のり
アメリカ全軍で支給される戦闘用食料「MRE」は本来「Meal Ready to Eat(いつでも食べられる)」の略なのですが「みんなの嫌われ者(Meals Rejected by Everyone)」「食べ物に似た何か(Materials Resembling Edibles)」と言われるくらい飽きてしまうのが難点。そういうわけで以前お知らせした「携帯用ピザ」の完成が待ち望まれているわけですが、その道のりは長く険しいものでした。
アメリカ人の魂の燃料「ピザ」
アメリカにおけるピザは、ひょっとしたらピザのルーツであるイタリアよりも大事に思われているフシがあります。ちょっと小腹がすいたときからお誕生日のお祝いまでありとあらゆるシチュエーションでピザが供され、小学校の給食でも毎週金曜日はピザだったりします。兵士達ももちろんピザ大好き。アフガニスタンの基地には自分でピザ窯を作って焼いてしまうような人達もいます。
これほどまでに人気のメニューなのですがMREには「ピザ」のメニューがありませんでした。これには色々な理由があるのですがまずMREのスペックを満たすのが大変なことがあげられます。常温で3年間食べられること。摂氏マイナス51度から49度までの温度変化に耐えること。パッケージは空中投下に耐えられる強度をもつこと……など、軍用としてかなりタフなものでなければいけません。
軍用規格へのチャレンジ
これに準拠するようにピザを作るには数々の困難があります。まずドウ、ソース、チーズ、サラミという構成要素はそれぞれ最適な保存条件が違うものを同じ包装で保存しなければなりません。
またドウがソースで湿らないようにしなければいけませんが、ソースに混ぜ物をして染み込まないようにすると味がおかしくなります。かといって違う袋に入れておいて食べるときに塗りつけるスタイルにすると、手を洗えない兵士達に衛生的な問題が出てきます。
アメリカ陸軍ナティック研究所のミシェル・リチャードソンさんは研究を重ね「3年間放置していても袋を開けると焼きたてのピザが食べられる」という無理難題をクリアしました。
まずドウは保湿剤を使って内部の水分を保ちバクテリアの繁殖抑制とソースがドウに染み込むのを防いでいます。またでんぷん質が再結晶化しボソボソになってしまわないようガム質と特殊な酵素を用いています。これらは90年代に導入された「湿らないサンドイッチ」の技術をベースとしています。
ソースはグリセロールを配合し、味や食感を維持しながらもドウに染み込むのを防止しました。チーズもできるだけ低湿のものを使用していますが、焼きすぎると変色するため調理時間を厳密に管理しています。
ペパロニに関しては酸性度から非常にカビやすいという問題がありました、これは浸透脱水による水分の除去と、そしてパッケージに窒素を封入することで解決しています。
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民間への技術転用
電子レンジやレトルト食品などの技術はこうした軍の研究がスピンアウトされたもの。食品の保存技術は廃棄される食料のムダをなくし、安定供給につながることから今後も民間への転用が続くと思われます。スラングでは「もう興味がわかなくなったもの」を「冷めたピザ」といいますが、もうこの隠喩も過去のものになりそうですね。
ソース:It’s not delivery. It’s MRE! Researchers seek secret to downrange pizza | Army Times | armytimes.com
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