科学と技術

歴戦のパイロットに圧勝できる戦闘機シミュレータ用人工知能をアメリカ空軍研究所が開発


現在製作中と言われている「トップガン」の続編では、トム・クルーズとAIを搭載した無人戦闘機の激しい戦いが繰り広げられると言われていますが、現実の世界では人間に対して圧勝できるAIがすでに開発されています。

戦闘機用AIの難しさ

近年の紛争ではもはやおなじみとなった「無人攻撃機(UCAV)」ですが、未だUCAVどうしの戦闘を目的にしたものは存在しません。空中戦は超高速で行われるため、通信のタイムラグが避けられない遠隔操作方式では追いつかないのです。

では、無人攻撃機に何らかの自律システムを搭載すればよいかというと、これも困難です。

空中戦というのは超高速なチェスのようなもの。自分と相手の位置と速度といった基礎的なデータにはじまり、燃料や弾薬の残りや他の味方・敵部隊の位置取りといった戦術的なデータの無数の組み合わせの中から最適な一手を選択肢なければなりません。

戦闘用ともなればセンサーがダメージで死んでしまうこともあります。機体やエンジンの損傷によって運動能力は変化します。もしその戦場に敵が新兵器を投入してくれば、過去のデータに基づいた予測もできなくなります。

航空機に搭載できる限定されたシステムでは、こうした膨大かつ刻一刻と変化するデータに対して計算速度が追いつかない、というのが今までの常識でした。

空中戦用人工知能「ALPHA」

シンシナティ大学と空軍研究所が共同で開発を進めている「ALPHA」はこの問題に対処すべく、遺伝的ファジィ決定木(GFT)をアルゴリズムとして採用しました。

ごく一般的なプログラミングでは、得られたデータを一定のルールで評価し、結果を導き出します。しかしデータ量が膨大になると総当りするだけで時間がかかります。またそれほど膨大な量のデータに対して、人間がルールを設定していくことは不可能です。

GFTでは、ある判断を行う際、必要なデータだけを取り出し「ざっくり」とした評価を与えます。余計なデータを評価しないことで少ないマシンパワーで判断をくだすことができます。

またどのデータをどのように使うのか、このルール設定もALPHAは自分で行えます。「EVE」と呼ばれる人工知能が複数のALPHAの判断とその結果を見守り、ある行動を取った際にどのようなデータに注目すべきだったのかを判定します。

どのデータをどのように使うのか、今まで人間がすべてを決定していたことをALPHAとEVEは自ら決めることができます。そして勝利したやり方を残すことでALPHAは成長していきます。

圧倒的性能をみせる「ALPHA」

開発者グループの一人であるジーン・リー元空軍大佐は「ALPHAは最も攻撃的で、反応が早く、ダイナミックで信頼性の高いAI」だと評価しています。彼はパイロットとしてのエリートコースであるアメリカ空軍兵器学校を卒業し「凄腕」の代名詞であるアグレッサー(仮想敵)部隊の一員として活躍、その後も対空迎撃管制官としてチームの指揮をとるなど個人技術・チーム戦術ともにトップクラスの人物ですが、それでも成長した「ALPHA」には手も足も出ないそうです。
Flying in Simulator – YouTube

ALPHAは現在の数値データだけでなくそこに過去の履歴も参照して最適な機動をミリセカンド単位の速度で「思いつく」ことができます。4機が2チームに別れ、敵の進路を潰すためにミサイルを放つチームと、それに合わせて最適な方角と高度で待ち伏せるチームに別れるなど群れでの戦術も人間顔負け。ジーン元大佐も「ALPHAは人工知能だ。しかし困難な相手だ。人間を相手にしているときと同じように心も体も疲れてしまう」と対戦の感想を語っています。

ソース:New Artificial Intelligence Beats Tactical Experts in Combat Simulation, University of Cincinnati

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