「ディスプレイ」と「紙」……写真の最終出力先を考える
写真関連製品のイベント、といえばカメラや三脚やカメラバッグ……といったものをどうしても思い浮かべてしまうものですが、写真が最後に行き着く「ディスプレイ」や「紙」なども関連製品のうちです。かつてない「写真ブーム」の昨今、最終出力先であるこれらにもいろいろな変化が訪れています。カメラ業界の見本市「CP+ 2013」でも多様な出力関連製品が展示されていました。
ディスプレイやプリンタなどの「カラーマッチング」を行う製品を扱うX-Rite社のブース
ディスプレイキャリブレータ「i1Display Pro」。液晶ディスプレイを発光させ、その光を計測しながら正しい色を表示するように調整していきます。
印刷の世界では、ディスプレイと印刷機の間で、同じ色なら同じように出力されなければいけません。ディスプレイで見た赤色と、印刷機で出力した赤色が違うとなると制作にものすごく手間がかかることになります。そこで「カラーマッチング」を行い、同じ色になるように調整するのです。
最近のアマチュア写真家の発表の場といえばなんといってもインターネット。つまり膨大な量の写真が日々ディスプレイに表示されていることになります。しかし近年ディスプレイは低価格化・大量生産化が進んでおり「とりあえず表示できるだけ」というレベルのものもたくさんあり、カメラの性能とディスプレイの性能の進化には差が出ている状態です。
というわけでディスプレイの性能を最大限に引き出す「カラーマッチング」や「キャリブレーション」はもっと注目されていくでしょう。各OSやブラウザ、グラフィックボードなどは対応がすすんでおり、より美しくいろいろな作品が表示される環境が広がっているだと思います。
さて長年写真出力の主役であった「紙」はどうなっているのでしょうか。
紙の世界では、「ファインアートプリント」という作品作りが盛り上がっているようです。
もちろん今までも「印画紙」というのは写真作品の重要な要素の一つでした。「ファインアートプリント」はさらに一歩踏み込み、写真の内容だけではなく紙の質感やインクのにじみやすさなども作品に取り込んでいます。アワガミファクトリーなど各社ブースでは様々な出力用紙による美しい作品が展示されていました。
業務用はもちろん家庭用プリンタの性能は飛躍的に向上しており、自分で「作りこみ」ができるようになりました。
写真そのものの完成度も高いのですが、その内容をどう出力するのかありとあらゆる部分にこだわった出力物はまさに「ファインアート」といえます。こちらはにじみが出るか出ないかのギリギリの色使いで現像している作品。紙のテクスチャによって光の反射具合や質感も違うので、紙ごとに数値を追い込んでいきます。
テクスチャで象の硬質な皮膚を表現。にじみを出さずフォーカスのシャープさがよく再現されています。
ディスプレイ機器開発とともに、ファインアートプリントのムーブメントを支援する三菱電機ブースにおける各種出力用紙の展示。
インクジェットプリンタでネガとして出力し、これを従来の方法で印画紙に焼き付けるDGSM(デジタル・ゼラチンシルバーモノクローム)プリントを展示するピクトリコブース。化学薬品を使った画像のトーンは、デジタル写真を直接プリンタで出したものとはまた違ったものがあります。
トクヤマブースの「インクジェット漆喰シート」。インクジェットプリンタでフレスコ画の技法と独特の質感を再現できるという出力用紙です。人物のポートレートに使うと肌のテクスチャがまるで本当の人の肌のような表現になります。
このように、実にたくさんの種類の紙があり、写真家はこれらを使い分けている……という事実を知ると、各社ブースに展示されているサンプル写真も「どんな絵にはどんな紙を使っているのか?」とぐっと面白くなります。
デジタルカメラには大容量のメモリがセットされ、一度の撮影で千枚単位の写真を撮ることも決して珍しいことではなくなりました。その中には強く印象に残る写真もあるでしょう。しかし、多くはディスプレイの外側に出ることなく、やがて忘れられ、消えていきます。
そうした写真たちを、残していくという点で「紙」の地位は見直されつつあります。2011年の東北地方太平洋沖地震では、倒壊した家屋から銀塩プリントされた写真が数多く回収され、修復されて生存者に手渡されるということがありました。
また、アート作品としてのデジタルデータの弱点は「手触り」がないことです。いくら写真は見るもの、とはいってもその印象を補強する質感や光の表現という点では平坦なディスプレイよりも「紙」のほうが有利な点もあります。
その昔「L判」よりも大きくプリントするというのは本当に特別な写真でした。誰かに手渡したい、共有したいと思えるような素晴らしい画像は選び抜いた紙に出力して手元に置いておく……という楽しみ方のひろがりは「デジタル+写真」ブームの成熟を示すたしかなしるしです。
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