ベトナム戦争時代に配布されたマンガ式「M16分解清掃マニュアル」
当時としては超先進的なデザインだったアメリカ軍のM16小銃は「メンテ不要」と勘違いした兵士が続出したため、当初は故障だらけの欠陥品というイメージがつきまといました。これを正すため陸軍はこのようなマンガ式の清掃マニュアルまで出版して「ちゃんとメンテしろよ」と兵士を教育していたのです。
第1次世界大戦と第2次世界大戦のデータを精査した結果、高度に機動化した現代戦では命中率は発射数に比例、とにかく弾をバラまかなければいけないということが判明したのです。
そのためにはよりたくさんの弾を持たなければなりません。つまり銃も弾もより軽くしてその分多くの弾薬を携行できるようにする必要がありました。
そこで作られたM16ライフルは、グラスファイバーで補強された銃床に軽量なアルミ製のレシーバー、そして小口径・高初速の5.56mm弾を組み合わせた当時としては非常に先進的なデザインでした。
ベトナム戦争期に使われた自動小銃。上から3番目と5番目がM16ライフル。4番目は原型となったAR-10。他の小銃が非常に古典的であることが分かります。
File:National Firearms Museum, Vietnam-era rifles.jpg – Wikipedia, the free encyclopedia
ところがあまりに見た目が未来過ぎたため、兵士のあいだでは「この小銃はすごい技術で作られているからメンテナンスはしなくてよい」という誤解が蔓延してしまいました。
製造元のコルト社もそう主張していた上、初期にはクロームメッキされていなかった薬室が耐えられず薬きょうが抜けなくなる故障が多発。火薬カスによる動作不良もあいまって戦場で銃を撃てずに死んでいく兵士が多数いたようです。
ベトナム戦争時に軍がおこなった2000人に対する調査では、「M16を使い続けたいか」という問いに「そう思う」と答えたのはわずか38人という体たらく。今でも「戦場ならカラシニコフだ」という伝説はこの頃のM16小銃のイメージが手伝っているように思います。
もちろんすぐに対策部品がリリースされこうした不具合はすぐに修正されました。それに加えて「ちゃんと整備しろ」「こういう使い方はするな」「濡らすな」ということを兵士に教育するべく出版されたのが以下のマニュアルとなります。それでは順に見ていきましょう。それぞれクリックすると大きな画像で見ることができます。
表紙。若い兵士たちの興味をひくため、極力文字は少なくされマンガ調の表現が多様されました。左下に書かれている通り作者はアメリカン・コミックの分野における最も重要な貢献者の一人であり、「漫画のアカデミー賞」とも呼ばれるアイズナー賞の創設者でもあるウィル・アイズナー。第2次世界大戦中、兵士の教育用広報誌「Army Motors」にコミックを導入して成功を収めたことから、後継誌であるこの「Preventive Maintenance Monthly」にも参加しています。
「キミの彼女とおなじくらいライフルのことも知ってあげてくれ。それからていねいに分解してやってくれ」
「ジャムったらこうしよう。それでもなおらなかったら技術マニュアルを読んでくれ」
「上級者からのワンポイントアドバイス」とにかくしょっちゅうメンテすること、潤滑油は塗り過ぎないことなど。
「古いタイプのマガジンは使うな」「マガジンキャッチはよく調整しよう」フォワードアシストノブがついているのにマガジンキャッチまわりのリブがないという過渡期のM16のイラストです。
「組み立て時のセレクタの位置」「ファイアリングピン・リテイニングピンを対策品に変えよう」
「ピン穴が摩耗して脱落するからロアーレシーバーは注油と掃除だけにしよう」最近は脱落防止のパーツもよく見かけます。
「セレクターはかちっと操作しよう」「フラッシュハイダーは茂みにひっかけないように」
フラッシュハイダーとは銃口の部品。閃光を抑える働きがありますが、初期のものは左のように割れていて茂みにひっかけやすかったそうです。その後右側の形に改良されました。
あらゆるページにしつこいほど「潤滑しろ。でも塗りすぎるな」の表示。
「野球だって自分のポジションをまもるだろう?この部分は専門家に任せよう」
「撃つ前に水を抜け!」銃身に水が残っている銃を撃つとほぼ確実に破裂します。
「水にぬらさないように。ポーチも一緒に持ち上げて川を渡ろう」「マガジンは捨てないように!敵に使われるぞ!」
ソース:PS Magazine Issue DA Pamphlet 750-30 :: PS Magazine, the Preventive Maintenance Monthly
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