科学と技術

コードネーム「グレイ・フォックス」、ビン=ラディン殺害の裏で動いていた米軍の超極秘部隊ISA(情報支援活動部隊)


陸軍・海軍・海兵隊のいずれにも属しない統合特殊作戦コマンド直下の情報戦部隊ISA(情報支援活動部隊)、通称「アクティビティ」。何度も所属や名称が変更され、本当に存在するかも分からない……まるで映画のあらすじのようですがそんな超極秘の部隊がアメリカ軍には存在します。明らかになっている最も新しいコードネームは「グレイ・フォックス」。いったいどんな部隊なのでしょうか。

生い立ち ~ ISAは「世紀の大失敗」から生まれた

数々の秘密作戦を成功させてきた彼らですが、そのルーツは特殊部隊史上最大級の失敗からの反省にあります。

70年代末、米ソ両国の「代理戦争」が戦われる一方、中東・アフリカなどでは宗教的・民族的対立が高まっていました。そんな中、イランでは反米派の学生を中心に、テヘランのアメリカ大使館を占拠した「イランアメリカ大使館人質事件」が1979年11月に発生しました。

アメリカは、これが初陣となるアメリカ陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊「デルタフォース」を中心に陸・海・空・海兵隊の四軍すべてを投入する救出作戦「イーグルクロー作戦」を計画し、事件を解決しようとします。

しかし大所帯の上に官僚的な縦割り組織である軍隊のこと。互いの連絡や調整の手間は膨大なものとなり、情報の共有もうまくいきません。結局テヘラン郊外の部隊集合地点で、侵入用の輸送ヘリが操縦をあやまり輸送機に激突。死者8名、負傷者4名を出し部隊は何もせずに撤収という最悪の結果となりました。

これを教訓とし、四軍がそれぞれに持っている特殊部隊をまとめて動かせるようまったく新しい指揮系統「統合特殊作戦コマンド(JSOC)」が誕生、その情報収集部門としてまずFOG(野外作戦群)が仮編成され、そしてISA(Intelligence Support Activity……情報支援活動部隊)、通称「アクティビティ」として正式編成されます。

その後も作戦支援活動部隊(Mission Support Activity)や研究・分析活動部隊(Studies and Analysis Activity)などと改称。予算は計上されるもののその内容は公開しなくてもよい「特別アクセスプログラム(SAP)」下でのコードネームも「Centra Spike(中心のトゲ)」「Torn Victor(引き裂かれた征服者)」「Cemetery Wind(墓場の風)」「Gray Fox(灰色狐)」とうつろい、所属も様々に変わりながら後述する様々な秘密作戦に参加しています。

見えない偵察兵 ~ ISAのお仕事

アメリカのCIAやイスラエルのモサド、ソ連の旧KGBにイギリスのMI6と世界には様々な諜報機関があり日々スパイ活動を行っています。その任務は様々ですが、基本的には政治家が正しく判断を行い、国際間の交渉を有利にすすめるための情報を手に入れるのが目的です。

しかしISA(情報支援活動部隊)、通称「アクティビティ」の集める情報は質がまったく違います。「イーグルクロー作戦」では突入部隊にとって必要な情報、すなわち人質や標的の位置や建物の構造、見張りの巡回ルーチン、突入・脱出経路がほとんど入手されませんでした。そうした戦闘のために必要な情報を得るには軍人としての経験が必要となり、文民で構成される諜報機関には荷が重たいものとなります。

また、例えば自国の銀行で立てこもり事件が発生したら、地元の警察をすぐに派遣して様々な調査ができます。しかし「イーグルクロー作戦」では敵性国の首都にある大使館がターゲットでした。こうした危険地帯のど真ん中、しかも戦闘が起こりそうなところで情報収集ができるのはやはり軍人だけです。

つまり「アクティビティ」は、統合特殊作戦コマンドの下にいる「デルタ」や「DEVGRU(海軍特殊部隊SEALsチーム6から改組)」といった活動が公開されない「特殊任務部隊(SMU……Special Mission Unit)」のために戦場となる場所の情報を収集する「見えない偵察兵」としてはたらくのです。

もっとも、戦闘のための情報収集に特化し、目的を達成すれば撤収できる彼らをうとんじる人々も少なくはありません。軍内の慎重派は「アクティビティ」の行動をあれこれとチェックして制限したがり、攻撃作戦が終わった後も現地で引き続き情報を収集しなければならない諜報機関は構築した現地の情報網が「アクティビティ」によって破壊されてしまうのを嫌い情報を渡さない、といったことがしばしばあるそうです。

この辺りの葛藤については、「アクティビティ」側からの目線ですがマイクル・スミス著の「キラー・エリート―極秘諜報部隊ISA」に詳しく記述されています。

「アクティビティ」の華麗な戦歴

「クレディブル・スポーツ」作戦と「スノー・バード」作戦(1980年・いずれも中止)

「イーグル・クロー作戦」の失敗後、2度目の救出作戦計画には様々なものがあったようです。よく知られているのはロケットモーターを多数搭載したC-130をサッカー場に着陸・離陸させるという「クレディブル・スポーツ」作戦ですが、C-5Aギャラクシー輸送機8機で大軍団を一気に投入し敵を制圧するという「スノー・バード」作戦というのも検討されていたそうです。いずれも「アクティビティ」は人質の所在や突入ルートの選定・偵察を担当。実行されていればさぞかし派手なことになったでしょうが、人質が解放されたため救出作戦は中止となりました。

ロケットモーターを使ってサッカー場サイズの空き地に着陸・離陸が可能になった特殊仕様のC-130輸送機。ものすごく力技です。
Credible Sport Test YMC 130 H – YouTube

C-5Aギャラクシー輸送機。これを8機使って一気に大軍団を投入、建物はおろか街ごと制圧するという草案もあったようです。

偵察作戦の中には「アクティビティ」の隊員が人質のノンフィクション・ドキュメンタリーを撮影する映画スタッフに偽装して潜入する……というものもあったそうですが国防総省によって却下されました。これはCIAが同じような作戦を実行中であったためと考えられます。CIAが実行したほうはその後、2012年に「アルゴ」として映画化されました。

T-72戦車購入計画(80年代はじめごろ)

当時のソ連の最新鋭戦車であったT-72を入手・研究することで弱点を探ろうという作戦。ソ連から兵器を供給されるも、ソ連とはゴタゴタを起こしていたイラクのサダム・フセインにつけ込んでT-72を手に入れようとしました。

長射程の175㎜砲と交換でT-72とハインド攻撃ヘリミグ25戦闘機が手に入る予定でしたがビビったフセインが最後の最後に取引を中止してしまいました。

T-72戦車。その後イラクでもノックダウン生産が始まりますが湾岸戦争で多国籍軍の新型戦車にぼっこぼこに狩られることとなります。

「ウィンター・ハーベスト」作戦(1981年末~1982年初頭・イタリア)

イタリアで誘拐されたアメリカ陸軍の高官を救出する作戦。「アクティビティ」のチームは6週間かけて無線を傍受し、監禁場所を特定、イタリア警察特殊部隊の突入につなげました。

作戦にはかなり多くの部隊が参加しようと干渉してきました。中には「遠隔透視」いわゆる超能力で高官の居場所を特定しようとした研究計画「スターゲイト・プロジェクト」も参加しようとしたそうですが、却下されています。

コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルの追跡・捕獲作戦(1993年ごろ南米)

パブロ・エスコバルはコロンビア当局や他の麻薬組織、彼を恨む国民に追われた末に、治安部隊に急襲され殺害された、ということになっています。しかしながらパブロの潜伏先を突き止めるため「アクティビティ」の無線傍受組織が行動、実際の行動の際も関与が噂されています。アメリカ政府は公式には否定していますが、特殊部隊に関する数々のドキュメンタリーで知られる作家、マーク・ボウデンの「パブロを殺せ―史上最悪の麻薬王VSコロンビア、アメリカ特殊部隊」にはかなり詳しい関与についてまとめられています。

「ゴシック・サーパント」作戦(1993年ソマリア)

こちらもマーク・ボウデンの「強襲部隊―米最強スペシャル・フォースの戦闘記録(現在は改題して「ブラックホーク・ダウン―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録」)」でとりあげられたソマリアの軍閥のボス、モハメド・アイディードを捕獲すべく行われた一連の作戦。現地の武装勢力が用いる無線通信を傍受し、組織構成を解析し目標の位置を特定します。しかし映画「ブラックホーク・ダウン」のとおり「モガディシュの戦い」は失敗となり、アメリカ軍撤退のきっかけとなりました。

「レッド・ドーン(赤い夜明け)」作戦(2003年イラク)

2003年のイラク戦争ころになると、様々な任務ごとに陸海空軍の特殊部隊から必要な人間を抜き出し、統合特殊作戦コマンドの指揮下で一括運用する「タスクフォース」制度がごくうまく回るようになってきました。イーグルクロー作戦における「指揮系統の混乱」という欠点は実に20年越しで克服されたのです。「アクティビティ」は合同部隊「タスクフォース20」の一員として、国中を逃亡するサダム・フセインを追跡し、これをしとめました。

「アクティビティ」とビン=ラディン殺害作戦(2011年5月)

「アクティビティ」は頻繁に改組が行われており、所属や指揮系統、構成される人員や協力組織などが一定しません。2003年には陸軍所属から「Mission Support Activity(作戦支援活動部隊)」と名を変え統合特殊作戦コマンドの指揮下に入り、2010年には再び陸軍所属下の「Army Studies and Analysis Activity(研究・分析活動部隊)」と改組しています。

ビン=ラディンはパキスタンの隠れ家にいるところをDEVGRUの部隊に急襲され射殺されましたが、アメリカは長い間その居場所を突き止めることができませんでした。しかしビン=ラディンの元連絡役とされる男の携帯電話を盗聴し、とうとう郊外にある電話線を引き込んでいない謎の建物を発見します。そして、偵察衛星による監視の結果ビン=ラディンに背格好がよく似た男が毎日中庭に出てくるということが分かりました

こうした調査はCIAやNSAといった文民の諜報機関も行いますが、携帯電話など通信機器の盗聴は「アクティビティ」のまさに十八番。本当は誰がやったのかは闇の中ですがいかにも「アクティビティ」らしいやり口です。

この追跡劇と急襲作戦をCIAの担当官の目線で描くのが2013年2月公開予定の映画「ゼロ・ダーク・サーティ」。今から封切りがとても楽しみです。

まとめ

選抜に選抜を重ねた兵士に高度な訓練と装備を与え臨機応変に運用するというコンセプトは軍隊はもちろんのこと、古今東西のあらゆる組織でみられる「夢」であります。そういった「ドリームチーム」を主人公としたフィクションは「ウルトラマン」から「攻殻機動隊」まで後を絶ちません。

しかし、そうした組織は目的達成のためその他の何者をも省みることがないので上位機関が必死で押しとどめている、というのが現実です。

「アクティビティ」は相当に優秀な組織でありますが、その歴史は決して真っ白なものではありません。秘匿性を盾にして資金の不正流用を行ったり、武器の密輸を行ったことが議会で問題になったこともあります。エリートでも暴走するのは当たり前のこと。それを止めるには上位機関がさらに優秀である必要があります。

世界で他の誰にもできない作戦を実行できる「アクティビティ」の力はものすごいものがあります。しかし、それをなんとか使いこなすことが出来ているところにアメリカ政府や軍の首脳の有能さ、すなわち国力のすごさが垣間見えるのです。

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