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いかにして「アイアン・スカイ」は成し遂げられたか~ティモ・ヴオレンソラ監督インタビュー


「月面ナチの地球侵略」映画、「アイアン・スカイ」がいよいよ9月28日から公開となりますが、来日中のティモ・ヴオレンソラ監督にインタビューすることができました。いかにして「アイアン・スカイ」は成し遂げられたのか、それ自体が映画になるのではないかという内容となっております。


ティモ・ヴオレンソラ監督は1979年生まれ。コマーシャルやミュージシャンのプロモ動画を製作する一方、2005年にはSFコメディ映画である『スターレック 皇帝の侵略』を発表、その製作手法やネットでの無料全編公開などで、母国フィンランドでの知名度は非常に高いものがあります。

アイアン・スカイ」はそのノウハウをもとに、インターネット上で巨大なコミュニティを形成、資金提供やエキストラを募りながら3年かけて撮影されました。「月面ナチの地球侵略」というテーマも強烈ですが、製作手法もいわゆる「クラウドファンディング」的という非常にユニークなものとなっています。

DNA(以下D)
まず映画の内容について。「アイアン・スカイ」では「大国のエゴの暴走」「人種問題」「エネルギー問題」など、かなり幅広いテーマに触れていました。ここまでの幅広さはどのようにして可能になったのでしょうか?

ティモ・ヴオレンソラ監督(以下T)
多くの人はあるテーマを取り上げ、それに沿って映画を作るのだと考えています。しかし「月面ナチ」というのは非常に多くのアイディアを刺激して、活性化させるいいテーマでありコンセプトでした。そのうちのなるべく多くを盛り込めるよう、「アイアン・スカイ」は逆に見せ場の多い派手な映画にしようと考えました。

非常にたくさんのことが映画のなかで起こりますが、中心となるのはまず「侵略戦争」です。ワルモノが地球にやってきてそいつらと戦う、というような。その基本的な構造は守ろうと思いました。

そしてもう1つは「レナーテ(注:ヒロイン)の物語」です。1つの考えに凝り固まった人間ですが、作中で様々な経験をして他の考え方を学んでいきます。彼女は何か特別な力、強い意志を持った人間というわけではありません。しかしもっとも重要な人物です。

最初彼女はか弱く従順で、ナチスのプロパガンダを信じきっています。しかし映画が終わりに近づくにつれ、彼女は自らを支配し、世界について自分の脳みそで考えるようになるのです。

そしてもちろん政治的風刺ですね。これは作っていくうちにそういう側面が大きくなってきました。「アメリカ大統領」がキャラクターとして非常に強烈だったので編集段階で登場回数が増えていき、自然と政治的な風刺も増えていきました。

もちろんこれらのほかにも私たちが話し合ったアイディアは非常にたくさんあります。「アイアン・スカイ」は当初もっと膨大なものでしたが、そうしたアイディアをそぎ落とした結果今の姿になりました。

ワシントン(注:黒人の宇宙飛行士役)は飛んだりはねたり戦ったりのアクション担当です。ただそれは彼の一面にすぎません。しかし映画としては「相棒」の役を演じてもらう必要がありました

D
そのそぎ落としたアイディアについて。様々なマイノリティが登場しますが、監督は作中で彼らにあまり強い主張を与えなかったように思います。これはなぜですか?

T
この映画で何を語って何を語らないかということについて決断が必要でした。なんといってもナチの出てくる戦争映画ですからテーマは山のようにあります。ナチの戦争に対する意見、そして様々なマイノリティの戦争に対する意見、これらはすべて違います。映画を完成させるためにはその中からどれを語るのか選択する必要がありました。

例えば脚本では削りましたが、セクシャルマイノリティについて。ごく初期段階の脚本ではレナーテはレズビアンだったのです。これはこれで面白い物語で、彼女は戦争を通じてセクシャルマイノリティである自分を自覚し、そして完成されていくのですが、これはあまりにも大きな物語になってしまうので今回は取り上げられませんでした。たったの2時間しかありませんからね。

偉大なアイディアをボツにするのは自分の愛する人を殺すようなものです。他のマイノリティに関しても削ったものが非常にたくさんあります。

D
ということはそうして削った部分を含む続編や前日譚も期待していい?

T
もちろん。政治的問題は関心のひとつですが、例えば(言論や思想の)自由についても語りたいテーマのひとつです。もちろん何もかもまだ決まったわけでもなく、まだ脚本にさえとりかかってはいないのですが。

D
そうしたテーマへの関心や映画作りについて。あなたのフィンランド人としてのアイデンティティは、どのように影響したでしょうか?

T
フィンランド人らしさ、というのは2点あります。物事をあまり真剣に、正面からとらえることをしないということ。悪名高いですね。私たちは非常に無作法な国民だといわれます。これは無礼だというわけではなく、単にそう考えない、というだけなのです。

もう一つはコメディのダークさ(注:darkness=濃さ、リッチさ、重さ)です。ひょっとしたら「アイアン・スカイ」のコメディ部分というのは暗すぎてコメディに見えないかもしれません。しかしこれが「フィンランド流」なのです。フィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキの作品を見るとこのことははっきりと分かります。「アイアン・スカイ」にもフィンランドらしさというのは十分に出ていると思います。

D
当初の「ナチが月からやってくる」というコンセプトからはかなり飛躍したように思えますが、投資家や協力者などの人たちはどう思っているでしょうか?

T
製作当初から「ナチが月からやってくる」というコンセプトは変えることなく、またそれ以上のことはあまり口にしてきませんでした。協力者もそれ以上は期待していなかったと思います。しかし私たちはそこにそれ以上の様々なメッセージや強いテーマを詰め込みました。それについて中には(「思っていたものと違う!」と)怒った人もいます。しかしお金や時間、情熱を注いでくれたほとんどの人は「彼らは何かカッコイイものを作っている」と私たちを信用してくれました。

あそこまで深くテーマを掘り下げていったことについても愉快ではない人もいると思います。もっとシンプルなものを望む人もいると思いますが、大多数はこの壮大さを支持してくれました。

D
製作について。監督はインターネットに非常に巨大なコミュニティを作ることに成功しました。そうしたコミュニティを運営していく際に最も大事なことを教えてください。

T
コミュニティとは人によって運用されるもの。自分自身の望みについて忠実でなければなりません。そして参加してくれる人は、実際に映画を作る人と関わりあいたいのです。誰かマーケティングの人を雇って「監督は今こういうことをしてますよ」と言わせるというわけにはいきません。

結局、透明性、今何をやっているのかというものが期待されていると思います。映画業界も含めた一般的なマーケティングではここのところが不十分なように思います。

例えば週に一回進捗報告ムービーを出したり、「いつもありがとう」とブログに書いたりする。これだけでもずいぶん個人的で、人々が望んでいることに近づくと思います。結局、プロジェクトの内容も大事ですが、誰がそれをやっているのかにみな興味があるのです。

もう一つ大事なのは双方向性ですね。グループを作ってコンテンツを注ぎこむだけ、というのは意味がありません。そこに参加しているメンバーとコラボレーションが発生する可能性が必要です。

「カッコイイ映画を作るからカネをくれ」と宣伝するだけではだめ。「一緒に映画を作ろう。これとこれに手が足りないから手伝ってほしい。参加してほしい」とする。するとコミュニケーションが生まれて、本当にコミュニティとなっていくのです。

D
最後の質問です。どんな人に最も見てほしいですか?

T
SFファンの人には確実に「面白い」と思ってもらえると思います。しかし本当に見てほしいのは女性なのです。映画館に行くには非常に大きな決断が必要だと思います。しかしこの映画は見てほしい。強くて魅力的な女性が主人公というのは他のSFではまず類をみないでしょう。普通は非常に一面的なテーマになってしまいますからね。

女性の観客からは「普段SFは見ないけどこれは特別。とても人間味にあふれてる」という反応も得られました。女性のためのSFと言っていいと思います。

D
そういう女性は男性を映画に誘うものですからね?(笑)

T
そう、だから「アイアン・スカイ」は最高のデート・ムービーになると思いますよ(笑)

というわけで月面ナチ帝国と地球連合、互いの存亡をかけた熱い戦いを描く一大SFアクション映画「アイアン・スカイ」はいよいよ2012年9月28日、全国TOHO系の劇場で公開されます(公開予定劇場一覧はこちら)。

あの永井一郎がナレーションをあてている豪華予告編はこちらから。
映画『アイアン・スカイ』オフィシャル予告編 – YouTube

おまけ:取材終了後、ロックスターとしての才能を垣間見せるティモ・ヴオレンソラ監督。

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